写真で綴る日常

写真で綴る日常

思いは言葉に。思い出は写真に。

書き物 × 音弥(2)

9.確認

あの猫は、あの日抱きしめた猫だったのだろうか?
その後、段ボールにいなかったのは、誰かに助けられたのではなく、
あのようなことをされるために連れ去られたのか?
いや、きっとそんなはずは無い。
そんな偶然があってたまるものか。
そんな殺生なことがあってはならない。

僕は答えを見つけることのできない自問自答を何回も繰り返した。

そして居ても立ってもいられず、あの日捨て猫を抱きしめた場所に向かった。
いるはずもないのに、向かって確かめないと気が済まなかったから。

暫くして到着したその場所には、やはり捨て猫はいなかった。
ただ段ボールだけが無造作にそこに置かれていた。

僕はただ、予感が外れてくれとだけ願った。

しかし、次の日、その予感がを信じさせるには十分なできごとが起きた。


10.翌日

昨日に引き続き、
僕はまたこの場所にやってきた。

しかし、そこの景色は前日と一変していた。

小さなこととしては、段ボールがなくなっていること。
大きなこととしては、その周辺は黄色い立ち入り禁止のテープで囲まれて、
近づくことさえできなくなっていたこと。
そこには警察らしい人たちや、スーツ姿の人たちがその周辺で何かの記録をとっていた。

そしてある若い警察官と目が合った気がした。
その警察官は何かをつぶやいた後、周りにいた何人かもこちらに振り向いた。

何か不気味に感じて、僕は自宅に帰ることにした。

(まさか、あの事件の猫が、本当にここにいた捨て猫だったということなのか?)

当初感じた予感は、この日を境に確信に変わった。
その後は、じめじめした生暖かい空気のように、無力な自分への喪失感と不気味さだけが残った。


11.来訪者

さらに翌日、学校から自宅への帰り途中の僕の元にある青年が訪ねて来た。
その来訪者は自分のことを警察と名乗り、いくつかの質問を重ねた。

「いつも一人でこの道から帰っているのかい?」
「そういえば最近事件があったんだけどね・・猫の事件なんだけど・・知ってるかな?」
「ありがとう、他に友達とかからの噂話だけでもいいけど何か知らないかな?」
「おや、ここに白い毛がついてるよ。お年頃なんだから身だしなみはきちんとしないと、
 青春なんかすぐ終わっちゃうんだから!あぁそうだ、取ってあげるね。ごめんごめん。」
「暫くは友達同士で帰るといいよ!最近物騒だからね。時間割いてもらってごめんねじゃあまた!」

少しでも犯人逮捕に協力したくて、知っている全てのことを答えた。
きっと、気軽にすべてを話そうとしたのは、その青年の雰囲気も関係してのことだろう。
しかし、成年に答えた自分でもわかっていた。
きっと今の会話から、犯人につながる証言は何もないであろうことを。

(警察・・・というよりも大人って、大変だな)

そんなことを思いながら帰った。
一日でも早く捕まるといいのに。

 

12.日常

今日もいつも通りの朝。
いつも通りの学校。
いつも通りの風景。
・・・のはずだった。

校門をくぐった時から、浴びる視線がいつもより多いとは思っていたが、
教室のドアを開けた瞬間、それは勘違いではないことを確信した。

それはほぼ全員とも言ってよいクラスメイト達の視線が、
一斉に僕に向けられた。

何事かと思ったが、あたりを見回してその理由に気づいた。
その答えは自分の机にあった。
この前迄は、いじめで汚されたクラスメイトの机を拭いていた自分が、
今度は汚される側になっていた。

(あぁ、実に・・・下らないな。)
(最近は捨て猫のこともあって、なんだかこれにとどめを刺されたな。)
(疲れた。もう今日はいっか。)

僕は教室を背にして、帰ることにした。
校門を出たところで思った。

(あぁ。やられる側ってこんな気持ちなんだな。)
(突然すぎて、反応できなかったよ。)
(本当にこれでよかったのかな。)

この日、きちんと学校で現実を直視していれば、その後も変わっていたかもしれないと思ったのは、
ずっと先になってからだった。

そうだ、このことがあって、僕は【何事からも逃げない、まずはしっかりと受け止める】そんな生き方をすると決めたんだった。

 

13. もう一人の日常 其の二

(もう一人の日常 其の二)

今日もいつも通りの朝。
いつも通りの学校。
いつも通りの風景。
いつも通りの一人での読書時間。

ただ違うのは、自分の気持ちだけだった。
それゆえに僕は苛立った。

なぜ誰も気づかない!?
なぜ誰も僕だと気づかない!?
なぜ誰も自分に気づかない!?

僕は本当に実在しているのだろうか。

 

(続く)

 

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