写真で綴る日常

写真で綴る日常

思いは言葉に。思い出は写真に。

書き物 × 音弥(1)

1.音弥(オトヤ)

その名は音弥(オトヤ)
少し色白で華奢な男の子。
思春期真っ最中で、背丈は少し小さくて、
ちょっぴり人見知りな文学少年だった。

(田舎町風景)
学校から一番近い裏山へ寄った後の帰り道。
ぽつんとそびえたつ段ボールが置いてあった。
箱の中をのぞくと、灰色がかった姿で瓜二つの猫が2匹いた。
捨て猫だった。

「お前たちも可哀想だなぁ。」

思わず気持ちが言葉になって発せられた。
はっと我に戻り、あたりを見回す。
回りに誰もいなくて安堵する。
小さな猫達よりも、外で独り言を発した自分を恥ずかしく感じて、
制服姿の彼は足早にその場を離れた。


2.友人達の噂 

「ねぇ知ってる?あの子のこと。」 (目線がクラスメイトのあの子に移る)
「うん。この間、いじめられているXX君の机を拭いてあげてたのを見たよ」
「見かけによらず、凄いやつじゃん」
「そうなんだ ・・・でもね、たぶん私みちゃったの・・・」
「・・・何をみたの?」
「それがね、昨日「あの子」・・・」

「あの子」とは誰のことだろう。
僕はこの時、まだ気づかなった。
まさか会話にでたあの子が、自分のことだったなんて。
少しの認識のズレが、大きな悲劇を生むなんて。

誰も知らない。
「あの子」は「あの子」


3.「あの子」

僕は「あの子」を知らなくて、
「あの子」も僕を知らなかった。

「あの子」。
少し色白で華奢な男の子。
思春期真っ最中で、背丈は少し小さくて、
ちょっぴり人見知りな文学少年だった。

僕は「あの子」を知らなくて、
「あの子」も僕のことを知らなかった。
でも本当は、そうじゃなかった。


4.捨て猫

あの日立ち寄ったこの場所に、今日も来た。
捨て猫たちのその後が気になった。

遠くから見ていたあの場所には、
今日も段ボールが置いてあった。
嫌な予感がして、早足に近づく。

「よかった。きっと誰かに拾われたんだ!」
畏れながら覗いた箱の中は空だった。

僕は二日前、この場所にいた。
あの日、段ボールに近づいては捨て猫を抱きしめた。
「ごめんな」そう心でつぶやいては元に戻した。


5.記憶

顔なんて思い出せるはずもない。
そんな人がいたのかも定かではない。
戦友とも言える誰かがずっと隣にいた気がした。
そんな、生まれて間もない頃の、体に刻まれた記憶。

これは「あの子」の記憶。
それとも、あの子の記憶。

僕は気づきそうなことに、気付けなかった。
幼い記憶は色彩を加えては消して、自分をここまで守ってきた。
きっとこの先も、記憶は都合のいいように、自分をやさしく包んでいく。

 

6・もう一人の日常

(もう一人の日常)

「今日もあの子、本を読んでるね。」
「あだ名が文学少年だしね~。」
人間失格とか好きそう(笑)」
「何それ(笑)?」
「え?知らないの?有名なあの人の本だよ!」
「え?○○ってもしかしして意外と文学少女?」
「ははははは」

今日も嫌な気持ちにさせる会話が聞こえてくる。
何気ない会話の中には、「僕」を見下し、馬鹿にしている思いが滲んでいる。
とは言ってもその相手を睨みつけるだけの勇気も無い。
最初は本が好きで友人と会話してない体で過ごしていた休み時間も、
今では本当に本を読むことしかない時間になった。
でも本を読むこと自体は、悪くないと思える瞬間だった。
いつのまにか、本当に本が好きになっていた。
本を読んでいるときは、何かとつながり、得体の知れない一体感を感じていた。
その世界は、自分の可能性を広げてくれる。
そんな気がしていた。

いつものように、記憶は少しの色彩を加えては消して、今日も自分を守ってきた。
きっとこの先もなんとかなると思っていた。
これが「あの子」の日常。


7.すれ違い

それはこの町に引っ越してきて間もない日のできことだった。
引っ越してきたのは、両親の仕事の都合上だった。
この日、僕はある本屋を通り過ぎた。通り過ぎただけだった。
けれど、同時に彼は星の数のように書籍が積まれた本棚を眺めていたんだ。
もしこの時、僕は彼に気づいてたらこの先の悲劇を回避できていたに違いない。

 


8.事件

その日、日本中を騒がせる事件が起き、報道された。
この町のとある正門に、猫の首だけが二つ晒されていた。
まるでかつての「少年A」のような犯行に、日本中が再びざわついた。

僕はとても嫌な予感がした。
猫、二つ。まさか・・あの日の捨て猫が・・!?

この時、少年のその予感が的中していたことは、神のみぞ知ることだった。

 

(続く)

 

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